ちょっとシリアスな「アイーン」

あい~ん

「うちの子は日ごろ下顎を前方に突き出す動作が多いのですが、将来的に受け口など歯並びに影響が出ることはないでしょうか。」

これは1歳~2歳の乳幼児の保護者から相談されることが多い質問内容です。実際に幼児の顔貌を観察してみると、何度も「アイーン」を行っていることが多いです。注)アイーンとは志村ケンの有名なギャグ

 そして、口腔内を観察してみると奥歯がまだきちんと萌えておらず、咬合時の接触は前歯のみとなっていることが大半です。下顎を頻繁に前方に突き出す原因の一つとしては、臼歯未萌出の時期に起こる前歯部接触による筋肉ストレスが挙げられます。幼児自身も「あれ、口になにか尖ったものがあって気になるな~、アイーン、カミカミ・・・うーむ」と悶々としているのです。

 上下の臼歯が萌え、そしてお互い噛み合うようになるまでの中途期間は、咀嚼運動時の顎の位置がどうしても前方寄りになります。なぜならば、上下前歯の咬合関係は前後的に「すれ違う」のが通常なので、臼歯部での垂直的な咬合ストップが不完全なまま咀嚼運動しようとすると、前歯の先端は対向する歯茎に当たってしまったり、前歯の突端同士で物を噛み潰そうとしますが、そうしたくても奥歯のようには上手くいきません。結果、前歯の当たり具合を確認するかのような癖がつき、下顎はいつも前方に位置してしまうことが多くなります。前歯は食物を比較的弱い力で「噛み切る」のが本来の仕事ですから、奥歯の代役にするには無理があるのですが、乳歯の萌える順序は奥歯よりも前歯が先に萌えてくるのが通常ですので、奥歯が噛み合うまでの期間は前歯にいろいろ頑張ってもらわなければならないのです。

 また、前歯での咬合感覚は奥歯よりも敏感そして繊細であるため、弱い咬合刺激であっても顎の動作に関与する神経ー筋肉が前歯への過剰負荷を常に警戒し緊張します。分かりやすくいえば、前歯への咬合刺激情報をもとに顎の挙動を脳がコントロールしようとするのです。有害な咬合接触刺激があると大抵は顎を後方へ移動(避難)させようとします。しかし後方へは数ミリしか移動許容量がなく、これが継続すると次第に筋肉が疲れてきます(筋肉ストレス)。そしてそのストレスを発散、解消させるために筋肉は頻繁に伸展されますが、このときに顎は前方へ移動することになり、いわゆる「顎を前に出す」という行動が目立つようになるのです。つまり筋肉ストレスが関与するということになります。成人においても同様な現象が起こりうるわけですが、顎を突き出す動作はあまり見かけませんよね。成人ともなると「アイーン」はちょっと・・と考えるからかもしれません。そのかわり、食いしばりや歯軋りという方法でストレス発散をすることが多いようです。さて、幼児の下顎が前方へ動きやすいもう一つの原因として、幼児期における顎関節の独特な解剖学的特徴があります。顎関節の骨形態がまだ未成熟なために前方へ抵抗なくスルスルと動きやすいのです。これは頭蓋が成長していくと顎関節部の凹凸がはっきりし、顎を後ろへ引っ張る筋肉も強靭になってくるので、無意識に顎を前突させてしまうことも少なくなっていきます。幼児の「アイーン」はあまり心配することはないでしょう。

 遺伝的な素質に影響を受けることも多いのが顎の発育や歯並びですが、たとえば親御さんの咬み合わせが受け口になっている場合は骨格的素質を受け継ぐことが多く、咬み合わせの継続観察を行うことをおすすめします。また、遺伝的なもの以外の他原因が考えられる場合は、噛み合わせのチェック及び舌やノド、鼻の状態、上唇を常時咬む癖があるなども含め症状を精査し確認する必要があります。

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